第12章 懐かしい顔と新しい顔
その日の晩。
夜も更けて満月は高く昇っていた。
深夜零時を回るかどうかの時分だろう。
エニシの部屋のドアがすっと開き、とうに寝ていただろう彼女が出てきた。
眠っていたとは思えない、しっかりした足取りだ。
服装こそ寝間着だが、上にはロングコートを羽織っているので、そこまで目立つことはない。
彼女はリビンクを通り過ぎ、そのまま外へと出ていく。
そして、月を見上げると少し目を眇めて大きく息を吐いた。
「漸くお出ましか。随分と待ちくたびれたぜ。」
後ろから声がかかり、彼女は少しだけ顔を顰めて振り返る。
その視線の先には、一体の人形を連れたサソリがいた。
彼は黒いローブのような上着を羽織っていて、まるで闇を纏っているようだ。
「…何故、私に拘るの?」
「興味があるんだよ。一つの器に二つの精神が宿る摩訶不思議。知りたくないって方がどうかしてる。」
それを聞いて、彼女は小さく鼻で笑う。
サソリから見ると、エニシとはまるで違う仕草だった。
纏う空気も普段のエニシからは想像もつかない程に鋭利で冷たい。
「知ったところで、それまでよ。何が得られるわけでもない。そんなことに労力を使う意味があるのかしら?」
「あるさ。それが…。」
そう言いかけてサソリは言葉を途切れさせる。
『それが人間の探究心ってもんだろ?』
サソリにはこの言葉が滑稽に思えた。