第10章 ルーツを探しに出かけましょ
平常が戻ってきた頃、そろりとエニシが戻ってきた。
入り口の襖を僅かに開けて、警戒しながらなこちらを覗いている。
まるで猫だ。
「…堂々と入ってきたらどうです?」
「まだいたら嫌ですもん。」
「そんな確認の仕方じゃ、いつまで経っても部屋に入れませんよ。」
一拍間を置いてから、そろりと襖が開かれてにゅっとエニシが中に入ってきた。
「普通に入れないんですか?」
「いや、逃げる準備しとかないと。」
「そんな及び腰で対応できるわけないでしょう。」
「やれば出来る!」
自信満々に拳を作るエニシを呆れながら見やる。
「やれやれ…。あぁ、ほら、後ろですよ。」
鬼鮫が指さすと、彼女は反射的にばっと振り返った。
彼はその隙に小さな水球を作ると、振り返ることを見越して顔に向かって弾いた。
「ぎゃっ!」
「やれば出来るんですよね?」
にやにやと笑いながら聞くと、エニシは袖で拭って怫然とした顔を見せた。
「性格悪いと思いまーす。」
「あなたがいい加減なこと言ってるからですよ。」
エニシはそれに小さく鼻を鳴らすと、いつも通りの動きに戻り、いそいそと服やローブを着込み囲炉裏に当たり始めた。
暫し、静かな時間が訪れる。
「…帰ってきませんねぇ。」
いつもの台詞に鬼鮫は無言で返す。
エニシとて返事がほしいわけではないと分かっているから。
鬼鮫は本を、エニシはぼうっと空を見上げる、いつも通りの日常が戻ってきた。