第30章 螺旋の薔薇【🌟 → 主 ← 🌹 ✉️*】
(……まさかっすよね)
脳裏に浮かべた「仮説」を首を振って散らす。
けれどそれでも、嬉しさと幸せに打ち震えるラムリの後ろ姿と、
彼の腕のなかへと抱え込まれながらも、
何処か申し訳なさそうに瞳をゆらめかせるヴァリスの横顔が、眼裏から消えることはなかった。
◆◇◆◇◆◇
靴の音を忍ばせながら、アモンは主の寝室へと続く廊下を歩いていた。
ボスキに稽古を付けてもらっていた際に、
彼が放った言葉が、胸の奥でしこりと化したまた落ちていかない。
「(主様が大切なら、時に見守ることも必要なんじゃないか………っすか)」
アモンにだってわかっている。
自分達は彼女に仕える悪魔「執事」であって、それ以上でもそれ以下でもないことを。
否、それ以上を望んではいけない。
頭では理解しつつも、欲張りたくなってしまう。
抑え込もうとすればする程、より膨らんでいく彼女を想う恋情(こころ)。
ラムリとともにエスポワールの街へと連れ出した際、街の人々から自分達を庇ってくれた彼女を強さを。
街の郊外に位置する花の園へ案内した際に見せてくれた柔らかな微笑を。
全部ぜんぶ、オレだけのものだったらよかったのに。
身を灼くような想いを、舌の先に奥歯を軽く食い込ませて散らす。
遮二無二足を動かしていると、いつの間にか彼女の寝室の前へと来ていた。
ノックをしようと指を握り、叩扉をしようとした時。
「んっ………はぁ、」
「主様、大丈夫ですよ。んっ………すぐによくなりますからね」
扉の向こうから仄かに捉えた、ふたりの声。
(……まさか)
気づいた時には、叩扉もせずに部屋のなかへと足を踏み入れていた。
「きゃあ………!? アモン………!?」
びくりと身を震わせたヴァリスが慌てて素肌にシーツを引き寄せる。
片やラムリはシャツの前をあけて少年のように華奢な上半身を顕にしていて、
靴と靴下を脱ぎ、彼の魔導服の七分丈パンツを纏っただけの姿だった。