第10章 愛、憎悪、殺意<壱>
頸が落ちた場所から血が滝のように流れ落ち、切断した頸は潰されて跡形もない。
普通の鬼ならこれで終わりだが、相手は上弦の鬼。簡単にはやられない可能性があることを皆は知っていた。
案の定、流れ落ちていた血は止まり、残った身体は力を取り戻すかのように拳を握った。
(出血を止めた!!)
「不死川、大海原ー!!攻撃の手を緩めるな!!畳み掛けろ!!時透と玄弥の命を、決して無駄にするな!!」
その声を聞いた瞬間、汐と実弥の目から涙があふれでた。
言葉の意味を理解してしまったから。
「上等だゴラ゛ア゛ア゛ア゛!!消えてなくなるまで刻んでやら゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
――風の呼吸 捌ノ型
――初烈風斬り
実弥の斬撃が竜巻のように黒死牟の回りを渦巻き、刃を削ぎ落とす。
――岩の呼吸 伍ノ型
――瓦輪刑部
悲鳴嶋の鉄球が縦横無尽に飛び回り、周辺ごと黒死牟を吹き飛ばす。
――海の呼吸 拾ノ型
――海神舞
汐の舞うような斬撃が黒死牟の下半身を切り刻む。
しかしそれでも、黒死牟は膝をつかなかった。
無一郎の残りの腕を切断し、刺された刀と木を抜こうと力を込めた。
(俺はもう、二度と敗北しない。たとえ頸を斬られようとも。体は崩れていない。まだ再生できる。これを抜き去れば、まだ死なぬ。奴らは死んだ。歌も聞こえない。刀の効力も術の効力も、まもなく消える)
そして私は、頸の切断からの死を克服する
悲鳴嶋の鉄球が黒死牟の顔面を捉えようとした瞬間、一撃は空を斬った。
目を見開く悲鳴嶋の背後に気配が回り、汐と実弥がみたその姿は。
背中からは触手のようなものが生え、斬り落とした筈の頭は鬼の象徴とも言える角が生え、六つの目はそのままに歯がいくつも突き出た異形の姿。
最早、人の姿は影も形もなかった。