第10章 愛、憎悪、殺意<壱>
汐の刃が黒死牟の頸に届いたとき、鬼の気配が膨れ上がった。
その不穏な気配を察知した無一郎は、残った足で汐を蹴り飛ばした。
それと、黒死牟が全身から刃を飛ばしたのは同時だった。
刃は汐の二の腕をかすめ、実弥と悲鳴嶼は寸前で避け、そして。
無一郎は胴体を、玄弥は中心から身体を真っ二つにされてしまった。
「無一郎ーーっ!!玄弥ーーっ!!」
汐の悲鳴に近い声は、二人の名を呼んだ瞬間に飲み込まれた。
黒死牟の全身から、刀と同じ刃がいくつも突き出ていた。
汐はすぐに体制を建て直し、今一度ウタカタを放ち全員を強化する。
実弥と悲鳴嶋も躍りかかるが、黒死牟はふたたびあの技を放つ気配を感じた。
(また技が来る・・・俺が何とかしなくちゃ。まだ無惨が残っているんだ。汐、悲鳴嶋さん、不死川さんを守らなければ・・・)
俺が、死ぬ、前に
無一郎は最後の力を振り絞って、全ての命を燃やし尽くすように、刀の柄を強く、強く握った。
その瞬間、黒死牟を貫いていた刀身が真っ赤に染まった。
(何だこれは・・・!!体が強張る・・・!!内蔵を灼かれるような激痛・・・!!)
痛みで一瞬怯んだ隙に、実弥、汐の刃が頸に当たる。しかし鋼のような頸は簡単には斬れない。
一方、真っ二つにされてしまった玄弥は、鬼化の影響で命と意識を繋ぎ止めていた。
兄と師範と友が命を燃やしながら刃を振るい、激しい戦いを繰り広げている姿を見ながらも、玄弥は冷静に場を分析していた。
(まだ、残ってる。俺の肉弾、あいつの体の中に・・・。みんなの猛攻で、構ってられないんだ)
なら、好機は今しかない。玄弥も最後の力を振り絞って口を開いた。
「血鬼・・・術・・・」
すると黒死牟の背中に先程の木が生え、身体を固定した。
(また固定か、目障りな。両断して奴にも止めを)
黒死牟は玄弥を確実に葬ろうと構えたが、その手が止まった。
(技が、出ぬ!!!)
そのとき、
――ウタカタ 伍ノ旋律
――爆砕歌!!!
汐の歌が黒死牟の左半分を吹き飛ばし、実弥が離れた瞬間悲鳴嶋の鉄球が頸を捉えた。
肉が焼ける音と、焦げ臭い臭いが辺りに充満する。
「ぐぅアアア、ぬァアアアア!!!」
黒死牟の獣のような咆哮が響き渡った。