第5章 風が変わる
カリムは以前ファーランと仕事をした時に逃げ遅れてゴロツキに捕まった
殴られ蹴られ最後はナイフで刺されてもリヴァイとファーランの事は話さず ごみ溜めのような汚い路地に捨てられていた
そんなカリムをリヴァイが見つけて連れ帰りしばらくの間私はカリムの看病をした
その時の後遺症でカリムの左手は少し麻痺が残っていて もう危険な仕事は出来なくなってしまった
痛めつけられても何も喋らなかったカリムをリヴァイは信頼している
仕事仲間が増えてもこの家の中に入れる仲間は限られていて
カリムはその限られた仲間の1人だった
私が1人の時の安全対策として扉のノックの仕方がそれぞれ違う
そのリズムの違いで扉を開ける判断になっていてノックだけで仲間の誰が来たのか分かる
だから知らないリズムのノックをされても私は絶対に扉には近づかない
今日は仕上がった依頼品をカリムが受け取りに来る予定でノックもカリムのリズムだった
扉を開けるとカリムが素早く家の中へ入り鍵をかけた いつもと違う行動に不安になる
「リヴァイ達が帰るまで俺がここにいる カナコは2階に居ろよ ミシンは使うな音がするから」
地下街ではあまり見かけない身なりのいい男がこの辺りを探っている…ようにカリムには見えたらしい
リヴァイとファーランとイザベルは3人で仕事に行っている
「1人で2階に居るのは不安だからここで仕事してもいい?」
「…いいけど 合図したら必ず2階に行くか隠れてくれよ」
「分かった!」
仕事道具を持ってきて 紅茶を入れた
カリムは紅茶を飲みながらも扉の外に気を配っていた
刺繍の仕事の何度目かの休憩をしてちょっと疲れた右腕を回し首も回して軽くストレッチをするとポキポキと関節がなった
「もう目も疲れたから今日は終わりにするかな」
「魔法みたいだな…針と糸だけで花が咲いた」
テーブルの上に置いたピンクのバラの刺繍をカリムは見た
「色の濃さが違う2色の糸で立体的に見えるでしょ?でもね面倒くさくて大変だから 多目に手間賃を取っちゃった」
「愛人へのプレゼントとか言ってたやつだろ?ふっかけていいんじゃね」
奥さんじゃなくて愛人だもんね と2人で笑い休憩をしてたら カリムが扉を見た
「話し声がする」