第3章 からだと心
「一緒にいれなくなる…」
最後にそう言ってリヴァイは背を向けた
『お母さんとお父さんは離婚するの 家族ではなくなるのよ 』
『私はお母さんと一緒に行くの?』
『加奈子はおばあちゃんの家に行くのよ そこでおばあちゃんと加奈子の2人でくらすの… だって加奈子はあの人の事嫌いでしょ?全然しゃべらないし 笑わないんだもの一緒にはいられないわ…』
どうして…しゃべらないっていうの?
お母さんもお父さんもしゃべらないから 加奈子が一生懸命おしゃべりしても お父さんはゲームに集中出来ないって怒るし
お母さんはスマホを見てるかテレビを見てるかで おしゃべりしても聞いてくれなかったから…
だからあの男の人に話しかけたらいけないと思ってたの
笑わないのは あの男の人の目が冷たかったから…怖かったから…
朝 仕事に行くお父さんの背中を『いってらっしゃい』と 見送ったのが最後だった
お母さんは『元気でね』と言って私を下りの新幹線に乗せると背を向けて歩いて行った
リヴァイも私に背を向けた…
『行かないで…』
お父さんとお母さんにもそう言えば振り向いてくれたのだろうか…
「行かないで…」
12歳の時には言えなかった言葉がこぼれた でもその声は小さくてすぐに空気に消えてしまった
もっと…頑張っていい子でいないと リヴァイも私を置いて何処かに行ってしまう
悪い子でごめんなさい…ごめんなさい…
もう1人にはなりたくないの…
「大丈夫だ……」
優しく温かな体に包まれた 紅茶を飲んでも冷たかった体に じんわりと温もりが肌に伝わる
空気に消えてしまった と思っていた言葉はリヴァイの耳に届いていた
リヴァイの手から伝わる温もりが私の心を溶かしていく
悲しみ 憎しみ 怨み などが入り交じったまがまがしい感情の渦が少しずつ凪いでいった
リヴァイのシャツを濡らしていた涙も 過呼吸気味だった浅い呼吸も落ち着いてきた頃にリヴァイは私から少し体を離すと
涙と鼻水で汚い私の顔をハンカチで綺麗に拭いてくれた