第3章 からだと心
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女の体になったカナコと一緒のベッドに寝るのは色々と無理だった
もう少し広い家に移る事も考えたが 夜中に悪い夢にうなされ泣き出す不安定なカナコを1人で寝かせるのも心配だった
この世界に来て初めての夜ですらカナコは俺に強がり静かに泣いていたくらいだ
寝室を別にするとたぶん彼女はまた静かに1人で泣くんだと思う
だからベッドだけ別にして同じ部屋で今も寝ている
「1人じゃない…俺が居るから大丈夫だ…」
抱きよせて背中を撫でてながら言うと 次第にカナコの鼓動は落ち着いていき 浅くなっていた呼吸は深くなり寝息に変わる
ただ寝間着のシャツを握りしめる手がなかなか離してくれなくて 俺はカナコの柔らかな体と甘い匂いに誘われ沸々と沸き上がる欲と戦うはめになる
カナコには俺しかいないから依存しているのは分かっている
たぶん俺が求めればカナコは応じるだろう…でもそれは恋ではない だから俺の感情は殺して優しい兄貴の振りをする
兄貴?カナコから見たら弟かも知れねぇな
「ジルの店に近い所で仕事が終わるから迎えに行く だから今日はジルが嫌がるまで相手してやれよ」
「市場も行けるくらいの時間に来れる?」
「たぶんな」
「じゃあ 久しぶりに一緒に買い物行こ!重たいのも買えるし!」
「チッ…ただの荷物持ちじゃねぇか」
「違うよーでも油とかミルクとか小麦粉とか…」
完全に荷物持ちだな…
でも嬉しいそうに買い物リストを作り出した姿をみるとこっちも口元が笑ってしまいそうになり紅茶を飲む振りをしてカナコから見えないように隠した
朝食の後片付けを済ませて振り返るとカナコが膝上まであるカーキ色のマントの肩にあるボタン留めていた
このマントも買った頃は足元まで丈があったのにな…本当に育ちすぎだ
歩き方や袖から伸びた手がもう女であることを隠せてはいないから カナコは男装だけはやめてる
「珍種狩り」最近はその噂もあまり聞かなくはなったが 東洋人のカナコは地下街では目立ち過ぎるので変装生活は続いていた
「じゃあ 行ってきます」
「あぁ…後でな」
背中に袋を背負ったカナコは手を振ってからフードを目深に被り出ていった