第6章 相反☩そうはん☩感情
(私が大切に思っても許されるのはマリスだけなのに、烏滸がましいよね)
顔を伏せて唇を歪めた時、フェネスの指が伸びてきて………。
「っ………!?」
その指がヴァリスの目元をそっとなぞり、そこで初めて自分の現状を思い知る。
「大丈夫じゃないですよね、………だって、あなたはこんなに泣いているではないですか」
優しく涙を拭う指をやんわりと払う。
震えそうになる唇を叱咤して微笑を形づくった。
「大丈夫、………大丈夫よ。………私は、平気だから、」
表情で触れられたくない心を覆い、仮面のように擬似的な笑みを貼り付ける。
けれどその間も瞳は心を裏切ってぽろぽろと雫を伝わせるばかりで、
そしてそんな自分を心から恥じた。
(私にそんな資格なんてないのに………。)
込み上げてくる苦い想いを唇で喰んで嚥下する。
未だ雫を溢れさせる目元を重ねあわせた指で覆い隠し、フェネスの眼から視線を解くと。
「主様、今からすること、どうか許してくださいね」
「え……?」
そっと手首を引かれて、大柄な彼の温もりに包まれる。
耳朶にかかる吐息に、フェネスに抱きしめられているのだと気づいた。
「フ、フェネス………ッ」
その胸を押し戻そうとする指は、蝶の翅を毟るより容易く封じられる。
「離して」とその腕のなかから逃れようと抗うも、その掌が彼女を解放するそとはない。
寧ろより強く抱き寄せられて、その温もりに張り詰めていた心が解けていく。
その感覚が怖くてたまらなくて、だからこそ離れなければいけなかった。
それなのに、彼は自分を抱きしめたまま逃がしてくれない。