第59章 棘
ロンは自分で言っておきながら嫌そうな顔をした。
「僕だったら絶対嫌だよ。魔法が強くなる代わりにそんなことになるって言われたら、もう二度と使わないかもしれない」
「それが普通よ」
ハーマイオニーは即座に言った。
「鼻血だって、体からの警告なんでしょう? それを『それくらいなら』なんて――」
ハーマイオニーはそこで言葉を切った。
「怖くないわけじゃないと思う」
ハリーがそう言うと、二人がハリーを見た。
「じゃあ、なんであんなこと言うんだ?」
「分からないけど」
ハリーは歩きながら考えた。分からない。本当は分からないはずだった。ハリーはミラではない。
けれど、医務室でミラが言ったことを思い返すと、どうしても全部が間違っているとは思えなかった。
「僕、ちょっとだけミラの気持ちが分かる気がする」
「ハリー?」
ハーマイオニーが驚いたように言った。
「命を縮めてもいいってこと?」
「違うよ」
ハリーはすぐに否定した。
「そうじゃなくて……力があるのに使うなって言われること」
二人は黙って続きを待った。
「僕とミラは、二人とも両親がいないだろ」
言ってから、ハリーは少しだけ声を落とした。
「それに、僕もミラも、ホグワーツに来る前が……そんなにいいところだったわけじゃない」
ダーズリー家で過ごした日々が頭をよぎった。階段下の物置。何を言っても聞いてもらえなかったこと。自分だけが何も知らず、何も選べなかったころのこと。
ミラが育った場所で何があったのか、ハリーはすべてを知っているわけではない。けれど、楽しい場所ではなかったことくらいは知っていた。
「だから、もし僕にミラみたいな力があったら……」
ハリーは少し考えた。
「使いたいって思うかもしれない」
「命が危なくても?」
ロンが聞いた。
「そこまでは分からないよ」
ハリーは首を振った。
「でも、今までできなかったことができる力を持ってるのに、それを使うなって言われたら……嫌だと思う」
ハーマイオニーは何も言わなかった。