第59章 棘
それまでハリーは、自分だけがひどく運の悪い子供なのだと思っていた。けれど、ミラと出会ってからは少し違った。学校へ行けばミラがいる。嫌なことがあれば話せる相手がいる。ダドリーのことで腹を立てれば、ハリー以上に怒る人がいる。
それだけで、それまで辛いばかりだった毎日が、ほんの少しだけ辛くなくなった。いつから家族のように思うようになったのかは、ハリー自身にも分からない。気づいた時には、そうなっていた。
「ハリー?」
ハーマイオニーの声で、ハリーは我に返った。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもない」
ハリーは首を振った。
ロンとハーマイオニーはまだ、明日ミラにどう話をするか相談していた。ハリーはその隣を歩きながら、さっきの医務室での出来事をもう一度考えた。
ミラが自分を大事にしてくれていることくらい、知っている。
昔からそうだった。ハリーが危ない目に遭えば怒る。無茶をすればもっと怒る。自分のことになると必要以上に心配する。
きっと今だって、ハリーがミラと同じ状態になったら、魔法なんか使うなと真っ先に止めるだろう。なのに、自分のことになると違う。
それがハリーには困った。腹立たしくもあった。少しだけ、悲しくもあった。
けれど同時に――分かってしまうところもあるのだ。
あの日、六歳のミラがダドリーたちから逃げていたら、ハリーを助けることはできなかった。
危ないから関わらないほうがいいと考えていたら、二人は友達になっていなかったかもしれない。
もちろん、今マクゴナガル先生が止めていることとは全然違う。そんなことはハリーにも分かっている。
それでも、誰かのために危ないほうへ飛び込んでいくミラを、全部間違っているとは思えなかった。
なにしろハリー自身が、それに救われた最初の一人なのだから。
だからこそ、難しかった。
ミラのそういうところを嫌いになってほしいわけではない。
変わってほしくないところだって、たくさんある。
でも、ミラが自分を助けるために取り返しのつかないことになるのは、絶対に嫌だった。
どうすれば、その二つを同時に伝えられるのだろう。
ハリーにはまだ、その答えが分からなかった。