第59章 棘
「もちろんです」
ハリーが最初に答えた。
「僕たち、ずっとそうしてます」
「ええ。分かっています」
マクゴナガル先生の表情がほんの少しだけ和らいだ。
「だからこそ、貴方たちにお願いしているのです」
「でも先生」
ロンが遠慮がちに口を挟んだ。
「僕たちが何か言って、ミラが聞くと思いますか?」
「ロン!」
ハーマイオニーが肘で小突いた。
「だって本当だろ! さっきだって――」
そこまで言って、ロンはマクゴナガル先生の顔を見て口を閉じた。
「構いません、ウィーズリー。私も同じことを考えていましたから」
ロンは少し驚いた。
「私が何度注意しても、あの子は聞こうとしません。いえ――」
マクゴナガル先生は一度言葉を切った。
「聞いてはいるのでしょう。ただ、納得していない」
ハリーには、その違いがなんとなく分かった。
ミラは先生の言葉を聞いていないわけではない。きっと全部聞いていた。
それでも、自分の考えを変える理由にはならなかったのだ。
「私は、貴方たちにミス・グローヴァーを見張ってほしいと言っているのではありません」
マクゴナガル先生は続けた。
「無茶をするたび私に報告しなさい、と言うつもりもありません。貴方たちは友人です。教師の代わりをする必要はありません」
そこでマクゴナガル先生の目が少しだけ医務室の方向へ向いた。
「ただ……あの子が一人で何もかも抱え込もうとした時には、傍にいてあげてください」
ハーマイオニーが静かに頷いた。
「先生は、ミラがまた力を使うと思っているんですか?」
マクゴナガル先生はすぐには答えなかった。
「使うでしょう」
三人とも黙った。
あまりにも迷いのない答えだった。
「少なくとも、今のあの子なら」
マクゴナガル先生の声には、わずかな疲れが混じっていた。
「今日私が話したことで、すぐ考えを改めるとは思っていません。あの子は、自分が危険になることより、何もできないことのほうを恐れているように見えます」
ハリーは顔を上げた。その言葉だけが、妙に胸に残った。