第59章 棘
せっかくある力なのに、使えないのは嫌だ。力さえあれば、どんな困難にだって立ち向かっていける。弱ければ何も選べない。私は、強くなりたい。
泣いても何も変わらないし、誰も手を差し伸べてくれない。
助けてもらえないなら、自分でなんとかするしかない。
物心がつく頃には、そうやって生きていくしかなかった。
しかし、ハリー達、マクゴナガル先生の顔を思い出すと、ミラはむしゃくしゃするようなものが込み上げてきた。
怒りなのか悲しみなのか、自分でもよくわからなかった。
とてもじゃないが、ハリー達が持ってきてくれた夕飯を食べようと言う気持ちにはなれなかった。
***
医務室の扉が閉まってからも、誰もすぐには口を開かなかった。廊下には四人分の足音だけが響いていた。ハリーは一度、閉じたばかりの扉を振り返った。頭から布団を被ったミラは、最後までこちらを見なかった。
怒っているのだろうか。それとも、本当に一人になりたかっただけなのだろうか。
どちらにしても、今戻って声をかければ余計に機嫌を悪くするような気がした。
ロンもハーマイオニーも同じことを考えているらしい。二人とも珍しく黙って歩いている。少し先を歩いていたマクゴナガル先生が、階段へ差しかかったところで足を止めた。
「ポッター、ウィーズリー、グレンジャー」
三人も立ち止まった。
振り返ったマクゴナガル先生の顔は、もういつもの厳格なものに戻っていた。医務室で見せた涙の名残も、ほとんど分からない。
それでも三人は、さっきまでと同じように先生を見ることができなかった。
ハリーはなんとなく靴の先を見た。ロンは所在なさげに頭を掻き、ハーマイオニーだけが姿勢を正して先生を見返した。
「先ほどのことですが」
マクゴナガル先生が言った。三人の肩がわずかに強張った。
あれほど激しく言い合うミラとマクゴナガル先生を見たことがなかった。まして、ミラが「親でもないくせに」と叫んだ時のことを思い出すと、ハリーは今でも胸のあたりが落ち着かなかった。
「貴方たちにお願いがあります」
「お願い、ですか?」
ハーマイオニーが聞き返した。
「ミス・グローヴァーのことを、これからも気にかけてあげてください」
三人は顔を見合わせた。