第59章 棘
マクゴナガル先生は少しだけ言葉を止め、一歩だけミラに近付いた。
「ですが、誰かを助けるためなら自分が傷ついても構わない----そう考えているなら、それは優しさと違います。自分自身を粗末に扱っているだけです」
ミラは反論しようと口を開いたが、何を言えばいいのか、言葉が出てこなかった。自分ではそんなつもりはなかった。ハリーを守りたい。友達を守りたい。危険なものから遠ざけたい。ただ、それだけだった。ミラは上げていた手をゆっくりと下へ下ろすと、浮かんでいたガラスもゆっくりと降下し、ミラを避けるようにして床へ落ちていった。
「私は貴方が傷ついた時、周りの人たちがどれほど心配していたかわかっていたと思っていましたが----どうやら、私もまだまだ未熟だったようです」
「…先生、私は別に…先生を傷つけたいわけじゃなくて…それに、私なら----」
「『私なら大丈夫』とでも言うつもりですか?」
マクゴナガル先生はピシャリと言うと、ミラは視線を逸らした。
「貴方は大丈夫だったのではありません。幸運だっただけです」
マクゴナガル先生は怒鳴ってはいないのに、表情はいつもの厳格な顔に戻っていた。けれど、その目だけは違った。怒っているように見えたが、ミラはそれが違っているようにも思えた。
「私は、貴方の力そのものを恐れているわけではありません」
マクゴナガル先生はゆっくりと言った。
「貴方がその力を持っていることを、危険だからと否定しているわけでもありません」
「じゃあ、どうして使わせてくれないんですか!」
ミラは思わず問い返した。
「言ったはずです、命に関わると。その証拠にいつも鼻血が出ているのは、体が貴方の魔力の負荷に耐えられていない証拠。今のまま使い方を間違えれば----命を縮めることになります」
命を縮める。
その言葉が落ちた途端、医務室の空気が変わった気がした。
「命って…」
ロンが掠れた声を出した。ハーマイオニーは口元に手を押さえ、ハリーは何も言わなかった。ただ、酷く驚いた顔でミラを見ている。
ミラは三人から目を逸らした。