第59章 棘
ミラたちの姿が見えなくなっても、ドラコはその場から動かなかった。左腕に巻かれた包帯を見下ろえる。
(……やられた)
あの瞬間。ミラの拳が飛んできた途端、自分は無意識に左腕で顔をかばっていた。痛めているなら、左手は動かせない。
つまり、自分から嘘を認めたようなものだった。
「ドラコ?」
パンジーが顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「……黙れ」
ドラコは短く答えた。
頭の中では、ミラの言葉だけが何度も反芻される。
『せいぜい下からハリーの活躍でも見とけば?』
ギリッと奥歯を噛む。
(あの女……)
完全に挑発された。しかも、それに乗ることすらできない。もう試合の日程は決まっている。
今さら「腕は治りました」などと言ったところで、フリントが許すはずもない。
スリザリンは自分たちで延期を申し出たのだ。
「ちっ……」
珍しくドラコが舌打ちをした。クラッブとゴイルが顔を見合わせる。
「行くぞ」
それだけ言って歩き出す。
だが、その灰色の瞳には悔しさが滲んでいた。
(覚えていろ、グローヴァー。次にポッターと箒で勝負するときは――絶対に勝つ)