第59章 棘
すると、ミラは何の前触れもなく、ドラコの左頬めがけて拳を振りかぶった。
「!」
「ドラコ!」
パンジーが悲鳴があげた。ドラコは反射的に、吊っていたはずの腕で、自分の顔を庇うように左腕を持ち上げた。
----しかし、いつまで経っても痛みはやってこなかった。
恐る恐る目を開けると、ミラの拳はドラコの左腕に触れる寸前でぴたりと止まっていた。
静かなアメジスト色の瞳だけが、ドラコを見据えていた。
「……」
ドラコは息を呑んだ。
ミラはゆっくり拳を下ろすと、わざとらしい、大きなため息をついた。
「残念だな。私は今年も、グリフィンドールとスリザリンの試合を楽しみしてたのに」
ミラは小さく肩をすくめて見せた。
「ハリーだって、他のシーカーじゃなくて、アンタとやるの楽しみしてたと思うのに」
その言葉に、後ろにいたハリーが「え?」と言う顔でミラを見ていた。
「でも、その怪我じゃ仕方ない。しっかり労ってあげなよ」
ミラはドラコの顔を覗き込むように首を傾け、どこか挑発的で、悪戯っぽい笑みをした。
「せいぜい下から、ハリーの活躍でも見てなよ。怪我人さん(loser)」
そう言い残すと、ミラはくるりと踵を返し、ハリーたちの方へ歩き出した。
廊下に残されたドラコは、ミラと吊っていた左腕を交互に見つめた。
(クソ、やられた…嵌められた上に、負け犬呼ばわりしやがって…クソ、クソ、クソ!)
ギリリッ、とドラコは歯を強く噛み締めてミラの背中を睨みつけた。
クラッブとゴイル、そしてパンジーでさえドラコに声をかけるのを躊躇った。