第59章 棘
ハリーも手を伸ばしたが、届かなかった。
ドラコは最初こそ余裕の笑みを浮かべていたものの、一直線に近付いてくるミラを見るうちに、その笑みがわずかに引きつる。
ミラはドラコの目の前でぴたりと立ち止まった。静かなアメジスト色の瞳が、まっすぐドラコを射抜く。
「そんなに試合に出たかったら」
ミラはドラコの吊られた腕へ視線を落とした。
「その包帯、取れば?」
一瞬、空気が止まる。
ドラコの口元から笑みが消えた。
「何の話だ?」
「もう治ってるくせに、いつまで怪我人の振りすれば気が済むわけ?」
「ちょっと!」
甲高い声が割って入った。
パンジー・パーキンソンがドラコの前へ出る。
「ドラコは本当に怪我してるのよ!あの凶暴な化け物のせいで!」
ミラはゆっくりとパンジーへ視線を向けた。
その冷え切った眼差しに、パンジーは一瞬だけ言葉を詰まらせる。
「アンタには聞いてない」
「なっ…!」
低く、冷たい一言だった。パンジーは何か言い返そうとしたが、凍えてしまいそうな冷たいアメジストの瞳と初めて目が合った時、パンジーは一瞬にして言葉が喉に詰まってしまった。
固まってしまったパンジーを他所に、ミラは再びドラコだけを見据えた。廊下は静まり返り、他のグリフィンドール生やスリザリン生たちも、ハラハラした気持ちで見ていた。
ミラはドラコをじっと見つめたまま、一歩だけ距離を詰めた。
「…何だ?」
拳一つ分背の高いミラが、ドラコを見下ろすと、ドラコは眉を顰めてミラから顔を逸らさなかった。