第26章 猫舌の君にはまだ早い《前編》◉天喰環
「せや、警護要請が来てるんやったな」
「・・っ!」
「お待たせしましたの本題や」
意味ありげに笑うファットの手で、白いコピー用紙がひらひらと揺れる
右上に印字された大学病院の名前を見た時から、俺はこの時を待ち侘びていた
「環お前、この話聞くためにたこ焼き頑張って食うてんねやろ?」
「・・・」
「本来なら東京のヒーロー事務所の管轄や、ただクライアントが昔っからの顔馴染みでなぁ」
ファットガム事務所をご指名っちゅうわけや、得意げに胸を叩いたファットが豪快に炭酸を飲み干す
早く続きが聞きたい俺はそれが悟られないように視線を皿に落とした
「数日間の要人警護、正直環が出るほどのモンやない」
「そんな・・!ファット、!」
思わず立ち上がった俺を訝しげに見遣る視線、刺さるそれに耐えるように深くフードを下ろす
「自分えらい必死やんか、公私混同かいな」
「ぐ・・っ、否定・・できない・・」
震え始めた足が視界に入る、なぜこんなに俺は情けないんだ、ファットの言う通り彼女に気持ちを伝えるならそんな術は他にいくらでも有るはずなんだ
頭に浮かんだアイコン、せめて本人の写真だったならと何度思ったことか
仕事と混同するなんて俺はヒーロー失格だ、この数ヶ月、いや雄英三年間一体何を学んで来たんだ
「ごめん・・ファットの言う通りだ」
公私混同なんてどうかしている、警護ということは人の命が懸っているんだぞ、甘ったれた気持ちでできるほどこの仕事が簡単じゃないことはこの数ヶ月でも痛感したはずだ、それなのに私情に流されるなんて心底情けない
「何を言ってるんだ俺は・・」
震える拳を握りしめどさりと椅子に腰を下ろす
グラスに付いた水滴がゆっくりと垂れるとそれは小さな水溜まりを作って、俺はそこで溺れてしまいたくなった
「ええで」
「・・!?ファッ、」
「後悔せんように区切り付けてこい、環」
お前メンタル弱すぎやねん、度胸付ける練習や思て当たって砕けてこい!、熱いはずのたこ焼きを数個まとめて口に運んだファットが唖然とする俺の肩をバシバシと叩いた
「衝撃を受け止める練習や!」
「やっぱり、く、砕けてるじゃないか・・・・」