第26章 猫舌の君にはまだ早い《前編》◉天喰環
「ほんでお前、そのままなん!?」
「・・・」
もういい加減たこ焼きは勘弁してほしい、目の前に積まれていく出来立てのそれをぼーっと眺めながら俺は力なく頷いた
「なっっさけな!そんなん男ちゃうで!?」
「ストレートに傷を抉らないでくれ・・」
「彼女よりファットさん選んだっちゅうとこは褒めたるけどな!」
豪快に笑うファットがまた俺の皿にたこ焼きを積んでいく
大阪での生活が始まって数ヶ月、目紛しい毎日の中で物想いに耽っている場合ではない、理解っている
事務所と宿舎を行き来するだけの生活、夢を叶えておいて不満を垂れるなんて、貪欲な自身が嫌になる
寝る前に決まって眺める彼女の連絡先、口実が見当たらない俺は毎晩そのアイコンを眺めるだけで何一つ動けやしない
「好きな子泣かしたままコッチ来たんかいな、案外ひどいヤツやなぁ環!」
「な、そんなつもりは・・!」
「片想いで終わらせたった方がよっぽど親切やで」
お前の邪魔になりたくなかったんやなぁ、ええ子やんか、しみじみと溜息を溢したファットがバシっと俺の背中を叩く
頭のフードを思い切り引っ張ると狭まった視界、ほんの少しだけ呼吸がし易くなった
「邪魔になんて、なるわけがない・・!」
「ほなハヤブサでも飛行機の部品でも食うて、そう言いに行ったらええやん」
「・・・」
でも彼女の真意がそうじゃなかったら?俺が彼女の邪魔になる可能性だって同じだけ有るんだ、遠距離恋愛どころか恋愛の経験すらまともに無いんだぞ、そもそも彼女の気持ちがまだ俺に有るのかも分からない、無かったとしたら今度こそ迷惑以外の何者でもな
「くよくよしてる間に他の男に取られんで?」
環がええんやったらええけどな、試すような視線と声に思わず耳を塞ぎたくなる
開け放たれた窓から部屋に流れる温い夜風、鉄板から放たれる熱気が部屋の温度をどんどん上げている気がする
口に放り込んだたこ焼きは舌を火傷するほどまだ中が熱くて、慌てて冷たい水で流し込むと額に浮かぶ汗を拭った