第26章 猫舌の君にはまだ早い《前編》◉天喰環
「・・最後はきっと、嫌われる」
そんなの耐えられない、だから綺麗なまま思い出にしたいの、天喰くんが好きになってくれた私のままで居たい、
潤んだ瞳から今にも溢れそうな雫、拭おうとした俺の指を避けるように身を捩った彼女がごしごしと目を擦った
「だから、ごめんね」
切なく響いたその言葉がどこか遠くに感じる、
だってそうだろう、彼女の発した「こんなに好きなんだよ」がエンドレスで脳裏に響いて、その甘い音に殴られたように頭が真っ白になって
砕けるどころか・・ひびすら入っていない・・!
「もう、何でにやけてるの、!」
「ご、ごめん・・!つい・・」
真剣に話してるのに!、思い切り顔を顰めた彼女が呆れたように踵を返して、慌てて伸ばした腕でその華奢な手首を掴む
「それだけ真剣に想ってもらえて・・幸せだ」
「は、なして」
「決めてきたんだ、次会った時には、俺は」
引き下がらない・・!
恐る恐る加減しながら引き寄せた細い腕、驚きに振り返った彼女を腕の中に閉じ込める
「カッコええで!いけるで環ィ!」はるか上の方で微かに聞こえる声も今は気にしていられない
「天喰くん・・!?みんな見てるよ・・!」
「い、いんだ、けけけ牽制に、なるはずだ・・」
容赦なく刺さる多くの視線と冷やかしの声に慌ててジャガイモを思い浮かべる、だけど正直今はそれどころじゃない、腕の中で困ったように頬を染める彼女の破壊力に、ふわりと香った柔らかな髪の匂いに、手足がガクガクと震えて
「新しい恋して、忘れたいのに」
「さ、せない・・君は俺の、だから」
情けなく震えの止まらない腕に何とか力を込めてその身体を抱きしめる
頭に響く自身の心臓の音、縋るように絞り出した声は予想以上に小さくて俺はまた自分が嫌になった
「返事を・・聞かせて、くれないか」
その目を覗き込む余裕なんて到底ない、
おろおろと視線だけを落として彼女の顔色を窺うと、あの時と同じように何度も繰り返される瞬きが胸の中に嫌な音を立てた
「・・だめなのに、嬉しくて、困る」
優柔不断でごめん、申し訳なさそうに俺を見上げた瞳に素直な困惑と動揺が浮かんでいる
「もう少しだけ、考えてもいい・・?」
拒絶されなかった事にひどく安堵した俺は、涙目を隠すようにして何度も何度も首を縦に振った
