第26章 猫舌の君にはまだ早い《前編》◉天喰環
「あいつ、君の何なんだ」
一気に顔を赤くした彼女が慌てたようにぱくぱくと唇を震わせて、視線を泳がせたままくるりと俺に背を向ける
「み、んなごめん!先に行っててくれる?」
例の男が面白くなさそうに俺を一瞥して踵を返す
やはり付き合っているわけではないんだな、彼女に一蹴されなかったことに深い深い安堵の息を吐いた
「き、君は俺が守る・・、守りたいんだ」
思わず飛び出た歯の浮く台詞、認識すると同時に即座に震え出した手でフードを深く下ろす
「もう、急に現れて変なこと言わないで・・!」
「でもさっき、困ってたじゃないか」
頼んでもいないのに荷物を持たれた時も、週末の予定を聞かれた時も、バイト先まで送ると言われた時も・・!
「え、なんで、どこで聞いて・・っ」
鹿は聴力が優れているんだ、フードに隠れた耳を見せると目を丸くした彼女が呆れたように小さく笑った
「・・天喰くんは私の彼氏じゃないよ」
「彼氏じゃない、だから彼氏に・・なりたい」
「もう・・、めちゃくちゃだよ」
笑ってくれた、俺を見て、以前のように、
みるみる上がっていく体温、時折り感じる視線は全部ジャガイモだと思えばいい
「・・あの日のこと、毎日後悔している」
あたたかく滲んでいく視界の中で心から絞り出した言葉が、蝉の声に重なって
「君を・・諦められない」
震える唇を噛み締めて、それでも何とか発することが出来た言葉
伝わるようにと想いを視線に乗せて彼女を真っ直ぐに見つめる
「君がまだ、その・・少しでも俺を」
耳に揺れる飾りが木漏れ日にきらりと光る、伏せられた瞼の桃色が俺の知らない君を綺麗に魅せて
「・・天喰くんの連絡先ね、消そうと思ってた」
「え゛、え゛!?」
毎晩連絡したくなって辛いから、そう言ってちらりと向けられた視線に胸が甘く疼いて頭がくらくらする
惑わすような彼女の物言いに心臓がいくつあっても足りなくて、このままでは何も出来なかったあの日と同じだ
「やっぱり怖いの、天喰くんの邪魔になるのが」
遠距離なんて、だってこんなに好きなんだよ、すぐに会いたくなるに決まってる、寂しくなって天喰くんを困らせて、自己嫌悪できっと潰れてしまう