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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第25章 ポッピンサマーブラッシュ◉相澤消太※



音を立てた白いビニール、水滴の付いたそれに溶け始めている檸檬が透けて見える


「相澤くん、わた、し、まだ・・っ、」

「まだ、何」

お前ホントずるいね、囁いて見下ろすとその目に涙が浮かぶ
色付いた頬は温度を取り戻した証、目尻を拭うと掌に熱が伝わった



———じゃあ二人で乗って、 

二台の自転車、彼女が心底ほっとしたように息を吐いたのを今でも鮮明に覚えている
関係を壊したくない彼女が逃げる姿をこれまで俺は嫌と言うほど見てきた



「山田が好きか」

特別扱いと呼ぶには図々しい、簡単に蓋をされてしまうほどの僅かな違い


「ふ、たりとも好きなの」

「違うだろ」

いつだって俺を選んできたくせに良く言うよ、
手を滑らせた柔い肌の感触、ここまでやっと追い詰めたんだ


「おね、がい相澤くん、やめ、て」

「やめない」

いい加減認めたらどうなんだ、もどかしい気持ちが眉間の皺を深くする、早く彼女の口から愛を聞きたくて、意志を感じたくて、苛立ちを隠すように歯を食いしばる



「全部覚えてるんだろ」

「・・っ、」

「俺じゃないのか」

答えろ、鋭く放ったあまりに場違いな声、見開かれた瞳が小さく揺れる

雰囲気に流される言葉も、既成事実で縛るその先も、俺には意味がない
お前が俺を求めない限り、俺はお前を抱かない



「・・そんな聞き方、ずるい」

「お前にだけは言われたくないね」

探る必要も無いほど熱を浮かべた目が俺を見上げている、強引に奪われた方が都合が良いと妖しい色を宿して
お前の意志を無視して事を進めるほど、俺は優しい男じゃない



「見合いでもして俺が結婚すれば、」

安心して山田を選ぶんだろ、低く発した軽蔑が彼女の痛いところを鋭く追い詰める
溜まった涙が一筋落ちて、あたたかなそれが俺の親指に当たった


「お互い拗らせてこのザマだ、お望み通りそうしてやろうか」









「・・っ、だ、め」

脅しが引き出した何にもならない二文字、彼女の口から溢れ落ちたその音をすべての肯定ととっていいだろうか


「・・そんなの、絶対や、だ」

泣き噦るように彼女が声を発すると一瞬で熱くなった身体、核心を引き出すまでは口付けないと決めていたのに

押し付けるように喰んだ唇、手にかけた肩紐の色はあの日と同じで、俺は願うように小さく囁いた

「知ってるよ」
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