第25章 ポッピンサマーブラッシュ◉相澤消太※
白い照明の中を通り抜けたエントランス、狭いエレベーターの中で向けられる視線はより一層熱く感じて
「連れ込まれるのは、初めてだよ」
「〜〜っ!」
思い切り睨みつけた私の視線、好都合とばかりに絡め取った相澤くんが目線を合わせる
「・・っ、連れ込んだことはあるん、だ」
「無いと言ったら、信じてくれるのか」
触れ合った鼻先、思わず飛び退いた私の背中にエレベーターの壁が当たる
「わ、私だって連れ込まれたことくらい・・っ」
「それは妬けるな」
押さえつけられた腕がひんやりと冷たい
眉を顰めた彼が親指で私の唇をなぞると、到着を知らせる音が響いた
私の足で、私の意志で、たどり着いてしまった紺色のドア、鞄の中から取り出した鍵には蜂蜜色の猫ちゃんが揺れている
おすしに似ているという理由で三人から貰った小さなマスコット、選んだのは相澤くんだと私が知っている事を彼は知っているはずだ
「・・・」
「ふ、深い意味は・・!」
「何も言ってない」
さっさと開けろとでも言うように急かす視線が背中にじわりと汗をかかせる
遠くに聞こえた救急車の音が私をさらに落ち着かなくさせて
ぎゅっと差し込んだ瞬間に鞄の中から聞こえた振動音、何かの受信を知らせるそれが山田くんを思い出させる
未だに既読のつかないそれに、
彼は今頃どんな気持ちでいるのだろうか
「・・っ、」
三人の戯れ合いを見るのが好きだった、一緒にいられるのが幸せだった、
きらきらと撥ねた水、陽の光を反射した彼の髪があまりに綺麗で、手を伸ばして触れてみたいと思った
「・・相澤くん、」
鍵を差し込んだ手が震える、これを回してしまったら私は———
情けなく揺れ動く心を見透かす彼の視線、
火照っていた身体が少しずつ冷めていくのを、優しい彼は許してくれるだろうか
「こ、こまで来てもらったんだけど、ね」
私の意志で、決められる、
まだ戻れるのなら、
「ご、めん、やっぱり私・・っ、」
顔を見れないまま発した言葉、鍵を引き抜こうと指先に力を入れると、後ろから伸ばされた腕が私の動きを封じる
骨ばった大きな手が導くように私の手首を捻って
「もう遅い」
手の甲に重ねられたその体温に逆らえないまま、
私はカチャリと鍵の音を響かせた