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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第25章 ポッピンサマーブラッシュ◉相澤消太※



「後ろ」

耳に当てたスマホから聞こえた低い声、振り返って目線を彷徨わせると階段を上りきった相澤くんが通話を切る
この数十秒の出来事についていけない私の足だけが、黄色い線の内側で頼りなく竦んで


「・・っ」

言葉が見つからないまま視線を落とすと、同時に大きな音を立ててホームに到着した電車、
開いた目の前のドアからスーツ姿の男性が何人か降りる

軽快な発車メロディが鳴り始めると、あの時と同じように私の手首を掴んだ彼は、明るすぎる車内へと私の腕を引いた



「ど、こ行くの・・っ?」

飲み直すんでしょ、小さな声でしどろもどろに紡いだ言葉を車内アナウンスが掻き消していく


「手、はなして・・、」

掴まれたままの手首を小さく引くと、相澤くんの指がゆっくりと私の手のひらを滑って

焦らすように甘く絡められた指先、解こうとしてもびくともしない力に心臓が壊れてしまいそうになった








もどかしい沈黙の中過ごした数駅、車内アナウンスが自宅の最寄駅への到着を告げる
駅名の表示された画面を見つめた彼は、ドアが開くと当たり前のように私の手を引いた



「、え・・っ」

手を引かれるまま降り立ったのは見慣れた駅のホーム、夏の匂いのする温い風が私たちの間をゆっくりと行き来している


「あ、いざわくん」

触れ合う腕、絡んだ指先、まるで今まで何度もこうして二人で降りたことがあるみたいに、

ずっと同じ場所に帰っていたみたいに





「ねぇお願い、なにか言って、」


「つまみ、何かあるか」

「そういうことじゃなくて・・!」

明らかに楽しんでいる意地悪な目、かさついた指の甲が熱くなった私の頬を撫でる


「無いなら買ってくか」


「う、ちに来る気、なの、」

「・・・」


ただでさえ言葉の少ない彼が、さらに言葉を減らしている
どう考えても意図的なそれは、蜂蜜のように甘く重い空気となって私を落ち着かなくさせて




「場所までは知らないよ」


決めるのはお前だ、そう突き放すような楽しげな視線が私の決断を甘く鋭く急かしていた
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