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《ヒロアカ短編集》角砂糖にくちびる

第24章 鳥かごは無色透明《後編》 ◉鷹見啓悟※



小さなスーツケースがタイルに音を立てる、連休の初日はホームも改札も人で溢れかえっていて
見慣れてきた改札を出た途端に荷物を取りあげられた私は、この慣れない出迎えに小さく驚きの声をあげた


「お待ちしておりました、奥様」


「・・今回はそう呼ばれるんですか?」

「はい、奥様」

前回の「姫」よりはましかもしれないけれど、どうにかなりませんか、会長就任以来ずっと啓悟くんの秘書をしているらしい彼を軽く睨むと、笑みを隠すように顔を逸らされてしまった



「我々としては一日も早くご着任いただきたい」

「ふふ、奥様に?」

「・・最近ますます人づかいが荒くて」

年代も近い弟分、そんな雰囲気がぴったりの彼が私を見て意味深に溜息を吐く
日々の苦労が思い浮かんで少し同情した私の前で、黒のスーツが突然ぴしっと背筋を伸ばした





「会いたかった、!」

車の後部座席から飛び出した啓悟くんが思い切り私を抱き寄せる
ただでさえ人通りの多い駅前、各所からひそひそと聞こえた”ホークス”という言葉に顔が熱くなる


「あの、は、やく車に」

「ちょっとゆっくりして行きましょうよ」

これだけ居れば紛れてるでしょ、そう言った彼がコツンと額を合わせて
当たり前のように甘く啄まれた唇、驚きに伸ばした腕は呆気なく捕まって、悲鳴に似た喧騒の中、彼が愛しそうに私の髪を撫でた


「来週の見出しは決まりです」

呆然と立ち尽くす私を抱き上げた彼が耳元でそう囁いて、あまりの衝撃に足元がくらくらする



「なんで突然こんな・・っ」

「ガセ写真へのクレームが届いたんです」

訂正記事よりこっちのが”合理的”でしょ、
明るく手を振る啓悟くんが人混みを分けながら進むと秘書の彼がドアを開ける

黒い革のシートがひんやりと心地いい、真っ黒の窓ガラスが閉まると外の喧騒が嘘のように静かになった


「待ちくたびれましたよ」

俺を差し置いてお喋りとはね、茶色い靴の先が運転席にちょんちょんと触れると誤魔化すように動かされたバックミラー
甘えるように私の肩に頭を乗せた彼が、恨めしそうに呟いた


「お前じゃなかったら切ってるよ」

「・・この通りです、奥様」

見慣れた戯れ合いに呆れた溜息を吐く、叱り付けるような視線を啓悟くんに向けると、彼は少年のように無邪気に笑った
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