第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
「恵! 詞織!」
真希の呼びかけも空しく、伏黒と詞織は胸倉を男――甚爾に掴まれ、窓ガラスを割り、外へと連れ出される。
速いとかそういうレベルの話じゃない。甚爾が伏黒たちに近づいたことも、外へ連れ出したことも全く気づかなかった。
そこへ、ゾワッと背筋が粟立ち、バッと背後を見る。
『逝ったか、陀艮……』
火山のような頭を持つ単眼の呪霊が悼むように、塵を巻き上げる陀艮の亡骸に触れた。
どこから来たんだ、この呪霊は……冗談だろ?
陀艮よりも格段に強い!
呪具を失った自分と、片腕を失った直毘人。左目を治してもらったとはいえ、いまだ傷の深い七海。
この状況で、陀艮相手に劣勢に立たされていた自分たちでどうにかできるのか?
動けない真希の視線の先で、陀艮の亡骸の塵を掴む。再び開かれた手のひらからフワッと塵が散った。
『後は任せろ。人間などに依らずとも、我々の魂は廻る。百年後の荒野でまた会おう』
――さて。
振り返った単眼がゾッとするほどの殺意を帯びる。気がついたときには火山頭の呪霊が七海に迫り、その腹部に手を当てた。
『一人目』
ボウッと轟音と共に炎が燃え上がり、七海を呑み込む。
「七――」
『二人目』
倒れる七海に駆け寄る間もなく、真希の身体も炎に焼かれた。
* * *