第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
『“詞織を”任せるわ。それは礼の先払いよ』
「助かりました。“二人は”私が守ります。伏黒君、詞織さん、領域に集中してください」
“詞織を”と強調する詩音に、“二人は”と言い直して鉈を構えた。一瞬 渋い表情をしていたが、それより早く、陀艮が海から起き上がってくる。
式神の攻撃でかなり痛手を負ってしまったが、片目で戦わなければいけなかったことを考えるとだいぶマシだ。
――「どんな無理をしても あたしが助けます。だから、『無理をするな』とは言いません。その代わり、あたしが駆けつけるまで、自分の命も諦めないでください。約束です」
星良の言葉を思い出し、七海は鉈の柄を握りしめる。
二人を失えば間違いなく全滅……必ず死守する!
いつ式神をけしかけられてもいいよう、陀艮へ向けて鉈を構える――と、陀艮の背後から直毘人が迫り、拳を振るった。それにいち早く気づき、陀艮が身を低くして躱す。
「【地天 変化――弓】」
詩音が漆黒の槌から変化した長弓に呪力の矢を番え、陀艮へ向ける。その反対から真希が【游雲】を振りながら迫った。
陀艮が腹から三体の式神を真希、詩音、直毘人へ放つ。筒状の長大な身体が蛇のようにうねり、三方へ鋭い牙を剥いた。
「ハァッ……!」
真希が【游雲】を薙いで叩き切る。
「【土行展開――急々如律令】!」
矢にしてはやや重たい音を立てながら風を切った。矢は式神の口の中へ入り、呪霊を消し飛ばす。
直毘人が左腕と足で式神の顎を押さえ、術式でフレームに収め、踏み割った。その姿に七海は瞠目する。直毘人の右腕が欠損していた。