第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
「たかが右腕一本、さりとて七十一年物。高くつくぞ」
バシャッと水を跳ねさせ、式神がこちらに向かってくる。
――【十劃呪法】
七:三の点を狙い、七海は鉈を振った。
伏黒と詞織の【領域展開】、詩音の加勢――この状況が続けば勝機はある。“続けば”、だが……。
七海は背後を振り返る。
急激な呪力の消費で伏黒も詞織も顔面は蒼白、汗はびっしょりと流れ、ふらふらの状態。二人はもう限界だ。
「七、海さん!」
不意に、伏黒は震える声で呼んきた。
「あのタコは今、俺たちと領域の押し合いをしてると思っています。でも、俺たちの狙いは違う。領域……この結界にわずかでも穴を空ける!」
領域の押し合いはほとんど詞織がやっており、伏黒はその穴を空ける準備をしていた。
入ってきた穴はすでに塞がっている。『内から外』は『外から内』より難しいが、人一人通れるくらいの穴をほんの数秒もたせることはできると彼は言った。
呪力の消費が莫大な【領域展開】は一日にそう何度もできるものではない。領域の外に出ることさえできれば勝機はある。
「メグ、もう……っ」
詞織の領域が押され、揺れる汀が狭まっていた。詞織の言葉に、伏黒も「あぁ」と吐息交じりの声で返事をする。
「七海さん、結界の縁(へり)は俺の足元。入ってきたときに触れたから分かる……準備はできた! いつでも行けます! 三人同時に飛び込んでください‼ 詞織はその後……持ちこたえられるか?」
「はぁ、はぁ……持ちこたえてみせる」
ガタガタと手を震わせながら、詞織が声を震わせつつも頷いた。