第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
陀艮の領域の必中効果――【死累累湧軍】により生み出されていた式神を倒しきり、七海は膝をついた。
「ぐっ……はぁっ! はぁ……ッ‼」
式神の追撃が止まっている。なぜ、と首を巡らせれば、伏黒と詞織が陀艮の領域に割って入ってきているのが見えた。
領域を展開しているのか。それによって特級の必中効果が消えている。
加えて、赤と黒のゴシックロリータを着た少女の高笑いが聞こえ、漆黒の槌で陀艮に襲いかかっている。
星良から聞いたことがあった。詞織に取り憑いている【特級過呪怨霊】の詩音だ。領域の必中効果が消えただけでなく、さらに追加の援軍。
改めて必中効果を得るために、伏黒と詞織が狙われる。だが、領域の押し合いで二人は身動きがとれない。
身体は式神にあちこちを食われてボロボロで、左目も潰されて開かなかった。それでも、二人を助けないという選択肢は存在しない。
案の定、真希と詩音に海へ沈められた陀艮の生み出した式神が二人を狙った。
『詞織!』
悲鳴のように上がった詩音の声を聞きながら、七海は二人の前に立ち、式神を両断する。
「「七海さん!」」
ここに来ているのは伏黒と詞織のみ。猪野と虎杖の姿はない。
「猪野君と虎杖君は?」
「猪野さんはリタイア」
「ユージは別行動」
リタイア……『死亡』ではないことにホッとするも、別行動をしているという虎杖のことが心配だ。
伏黒も詞織も愚かではない。今の渋谷での単独行動がいかに危険は分かっているはず。おそらく理由があるのだろうと、虎杖の別行動について今は触れなかった。
不意に、『七海 建人!』と詩音が突然 声を張る。何事かとそちらへ意識を向けると、真言が唱えられた。潰れた左目が熱を持ったかと思うと、痛みが引いて瞼が開き、視力が戻る。