第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
『詞織!』
言霊を唱えようとして、だがとっさに出てこず、息を呑むしかなかった。
間に合わない!
――ザンッ!
詩音は目を見開いた。スーツの男が駆けつけ、詞織と伏黒を喰らうべく襲いかかった式神を両断する。
「「七海さん!」」
その姿に伏黒と詞織が息を呑んだ。服はあちこちが裂けて血だらけ、左目も潰されて最悪のコンディションのようだ。
「猪野君と虎杖君は?」
「猪野さんはリタイア」
「ユージは別行動」
簡潔な問いに、詞織と伏黒も簡潔に応じる。
『禪院 真希。あの男の名を教えなさい』
「あぁ? なんで……」
『早くして』
「七海……建人、だったか?」
【陰陽術式】では、名前は【呪】だ。特定の人間を呪うときに必須。
『【七海 建人】!』
突然 名を呼ばれ、七海が目を丸くする。全ては無理だ。だから、一番 深い部分を……。
「【オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ】‼」
真言は御仏の加護。だから、【陰陽術式】では呪いとは違う反転した術式効果。
正の呪力を消費するため、呪力消費は単純計算で二倍。それでも、詞織を守るためにはあの男の力が必要だ。
七海と距離はあるが、名前を指定したことで薬師如来の真言が正常に作用し、七海の潰された左目が開く。
『“詞織”を任せるわ。それは礼の先払いよ』
「助かりました。“二人”は私が守ります。伏黒君、詞織さん、領域に集中してください」
違う。“詞織を守れ”と言ったのだ。伏黒よりも優先的に。
しかし、それを指摘する暇はなく、沈んだ赤い呪霊が立ち上がった――……。
* * *