第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
詩音は冷静に、現状を把握していた。
だが、それは他の者たちとは違う。
何をやらなければならないのか。
それを為すことで何を得たいのかではない。
詞織が何を求めているのか。その一択。
今 詞織はこの場を脱し、特級を祓いたいと思っている。詩音はそのためだけに動いていた。
常に、彼女の原動力は詞織という存在のみ。
しかし、状況は想像以上に最悪だ。
詞織の【領域展開】によって、“縛り”のある状態でも特級レベルの力を振るうことはできるが、目の前の特級には劣る。
領域を維持するためにあまり呪力を消費するような術は使えない。【領域展開】の呪力の消耗は桁外れで、詩音が世界を呪って生み出す底なしの呪力をどんどん食らっていく。
使えるとするなら式神と言霊くらいか。この二つなら呪力効率がいい。
加えて、相手は水の性質を持っている。五行に置き換えるなら、土剋水で土行の方が有効かと思い、【地天】を呼んだ。
“縛り”さえなければ圧倒できるが……それは考えても仕方のないこと。
一度“縛り”を解いたら十時間 表に出てくることができない。現代最強と謳われる五条 悟が封印されるという異常事態――何が起こるか分からないこの状況でそれは避けたかった。
正直、他の誰を見捨てても、詞織さえ無事なら構わない。たとえ特級を祓うことができなくても。
だが それも、ここを出られなければ意味はない……か。
不本意ながら、真希との連携で呪霊を後退させ、海に沈めることに成功した。そのとき、ビュンッと詩音たちの足元を何かが這うように駆け抜け、詞織と伏黒へ迫る。