第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
『【あたしにその身を預けなさい】』
主人の命令に従い、黒の甲冑は細長い漆黒の槌へと姿を変えた。長い柄を握り、詩音が呪霊に迫る。
『【我が身は疾風(はやて)の如く! 岩をも穿つ剛腕の鬼神なり】!』
特級の腹から細長い魚――式神が飛び出し、詞織たちに向けて放たれた。それを蹴散らし、疾風の後押しで素早く迫りながら特級へ向けて槌を振り切るも、呪霊は両腕で受け止める。
『くっ……!』
詩音の表情に焦りが見てとれた。
詩音が呪力を使えば、消耗するのは詞織だ。だから、真言ではなく呪力効率がよく負荷の少ない式神や言霊を選んでくれたのだろう。
詩音は決して弱くない。全力を出せたのなら、もう少し拮抗しているはずだ。
その詩音の背後から真希が跳躍し、【游雲】の先端を特級へ打ち据えた。激しく波を立て、呪霊が後方へと吹き飛ばされる。
『相変わらずバケモノじみてるわね』
「大したことねぇ」
謙遜のように聞こえないその言葉に、詩音が怪訝そうな表情をした。そこへ、ビュンッと詩音たちの足元を何かが這うように駆け抜け、詞織と伏黒へ迫る。
『詞織!』
悲鳴のような詩音の呼び声が一拍遅れて耳に届くと同時に、長い体躯の魚が目の前まで迫っていた。
* * *