第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
『ふふっ。いい格好じゃない、禪院 真希』
「オマエも来てたのかよ、詩音」
『気安く呼ばないで、と言いたいところだけど、気分がいいから無礼を許すわ。だって、詞織と同じ空間に立ってるのよ! 興奮してゾクゾクしちゃう……!』
詩音が高笑いをしているのを感じるが、詞織はあまり深く考えることができない。
正直、ここまでキツイと思っていなかった。呪力の急速な消費も、領域の押し合いもかなりギリギリ。歯を食いしばらないと、ふらつく身体を支えることができない。
詞織の足元で汀が揺れるが、展開できている領域はそれだけ。気を抜けばすぐに削られ、呑み込まれてしまう。
伏黒の領域よりも広さはあるが、微々たる差だった。もう少しマシな状況を思い描いていたが、それがどれだけ楽観的なものだったかを思い知る。
だが、真希がこれだけ動けているのだ。特級の領域の必中効果は中和できていると信じたい。
「詩音……力を、貸して……お願い……!」
『苦しそうな表情……素敵だわ、詞織。でも、それは あたしじゃなくて、アイツのせいなのね』
青い顔で浅く呼吸する詞織の頬をうっとり撫でたかと思うと、詩音は不愉快そうに特級へ赤い視線を向ける。
『いいわ。“殺って”あげる。妹の可愛いお願いだもの』
そう言って、詩音は手のひらを差し出した。
『【謹請現示――地天】』
重たい黒の甲冑が現れると、詩音の前に傅き、その細い手を取る。