第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
「五条先生じゃないんだ。相手だって一日に何度も【領域展開】は使えないだろ。全員で領域の外に出れば勝ちだ」
「……そんなにうまくいくと思う?」
「やってみなきゃ分かんねぇ。でも……」
まっすぐ、伏黒は詞織を見た。
「オマエが【領域展開】を使えば、詩音が出てくる。普段は“縛り”で一級の力しかなくても」
「【領域展開】中は、“縛り”を解かなくても特級クラス」
ふぅ…と深く息を吐き出し、詞織は宙に浮かぶ領域を見上げ、ゴクリと唾を飲み下す。
「――やる」
「あぁ」
詞織は両手を合わせて指先を開き、伏黒は内側に指を絡めて印を結んだ。
「「――【領域展開】」」
――【嵌合暗翳庭(かんごうあんえいてい)】
――【夢幻泡影之揺籠(むげんほうようのゆりかご)】
出た先は海の上だった。次いで、南国のような青空と砂浜が広がる景色――そして、赤い体表を持ったタコのような姿の呪霊。おそらく、この領域の主。
「「真希さん‼」」
「恵! 詞織!」
伏黒の影が素早く伸びる。そこに三節昆――特級呪具【游雲】が浮かび上がった。
「上出来じゃねぇか、恵! オマエってヤツは本当に、クソ生意気な後輩だよ……!」
『自ら私の領域に侵入するとは愚かな』
詞織たちへ攻撃を仕掛けようとした特級へ、真希がビュンビュンと【游雲】をしならせ、先端を打ち出す。ドッと鈍い音を立て、特級が弾け飛んだ。