第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
「それはオマエの方だろ。なぁ? 七海一級術師殿」
「真希さん。これに関しては直毘人さんの言う通りに」
確かに、五条が封印された今、任務の難易度は跳ね上がっていることだろう。学生の手に終える案件ではない。だが、舐められたまま引き下がるのは癪だ。
「酔っ払いよりは役に立つさ」
「飲んだんですか?」
「飲んれらいよ……ゲフッ」
嘘吐くな。すでに隣にいる自分すら酔いそうなくらいに酒の臭いが漂っている。それは七海も感じているだろう。不安そうな顔をしている。
階段を降りながら、真希は薄気味悪さを感じていた。不自然なほど誰もいないのだ。呪霊も人間も。
「七海サン」
「えぇ」
真希は七海を呼び、足を止めた。柱の陰から何かが見ている。
『ふぶぅ……ぶぅ……』
頭から白い布を被った、赤い体表の小柄な呪霊だ。
槍の切っ先を呪霊に向けるが、七海が「ここは私が」と鉈を抜いて前へ出た。
「オマエたち、ちと鈍(のろ)すぎるな」
真希は七海と思わず目を丸くする。
そこにいたのは、先ほどまで自分たちの後ろをのんびりついてきていたはずの直毘人だった。彼は手のひらに呪霊を収めた長方形のフレームのような板を持っている。
直毘人は拳を握り、呪霊を収めた板を殴りつけた。バリンッと割れた板から呪霊が飛び出す。
「見えました?」
「……いえ」
尋ねてみるが、七海にも見えなかったようだ。
術式による作用なのだろうが、いくらなんでも早すぎる。
『ぶぅ……ぶぅうっうっ……ぶ、ぶぅうっ……ぶうっ!』
直毘人の攻撃に倒れた呪霊がえずき、『オロロロロロッ‼︎』と人骨を吐き出した。小柄な体躯には見合わない山のような人骨の数に、真希の背筋が粟立つ。
誰もいないと思ったら、コイツが全員 喰ったのか⁉