第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
「……貴様、何人 喰ったんだ?」
だが、呪霊は答えることなく、目尻に涙を溜めてぐったりと泣き出した。
『ぶふぅ……じょうごぉ、まひとぉ、はなみぃ』
呪霊の言葉に、真希は眉を寄せた。明らかに誰かの名前を呼んでいる。
『はな、みぃ』
すると、呪霊の様子が変わり、グワッと目を見開いて激昂した。
『よくも! よくも――花御を殺したなぁ‼︎』
額の皮がピシッと破れ、そこから何かが飛び出し、真希は槍を構え直す。
「なるほど。弱いはずだ。まだ呪胎だったというわけか」
天井近くまで浮いた呪霊が、こちらを見下ろしていた。
タコを思わせる見た目だが、四肢を持っている分 人間に近い容姿。赤い体表は先ほどまでと変わらないが、身体つきはがっしりとしていた。
上空に留まったまま、赤い呪霊が人差し指の先に渦巻く水の玉を作り出し、真希たちへ向けて打ち出してくる。迸る水の奔流に、真希は柱と柱の間に槍を突き刺し、それを足場にして水流より上に逃れた。
「なんつー物量だよ」
伏黒の【満象】や詞織の【背を早み】の和歌の比ではない。地下だったら詰んでいただろう。
眼下では、直毘人がいくつもの小さなフレームに水を閉じ込めたのか、水は瞬く間に引いていった。
「呪霊よ、アニメーションが一秒に何フレームあるか知っているか?」
『呪霊ではない』
「昨今の解像度やフレームレ―トを上げたがる風潮、4Kにアップコンバートだの、60fpsでフレーム補間だの――」
『私は陀艮。花御、漏瑚、真人にも――』
互いの言葉に耳を傾けることなく、直毘人も呪霊――陀艮も続けた。
『我々には名前があるのだ!』
「無粋だとは思わんか!」
陀艮の注意が直毘人に向いている隙に、七海が高く跳躍し、鉈を振り下ろす。その刃を腕で受け止めるも、拮抗の末に陀艮は床へ叩きつけられた。
畳みかけるべく、立ち上がろうとするところへ槍を振るう――が、それは受け止められた。