第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
「憂憂、無事かい?」
「はい、姉さま」
タタッと憂憂が隣に立つ。どうやら、必中術式は一人ずつにしか発動しないらしい。領域内で呪力の強い者を反射で標的にしているのだろう。
憂憂の肩に烏が留まる。
領域に巻き込まれた烏は一羽。やはり、王手を指すには攻撃対象を憂憂に移し、自分が自由に動く時間を稼ぐしかない。
だが、憂憂は墓石の攻撃を一度でも食らえば死ぬ。
そこまで頭の中で段取りし、冥冥は憂憂の頬を撫でた。
「憂憂、“私のために死んでくれるかい”?」
「“いいのですか”? 姉さまのために死んでも」
うっとりと姉の手にすり寄ると、憂憂から強大な呪力が溢れる。それは、姉を遥かに凌ぐほどの呪力量だ。憂憂の呪力解放と同時に、冥冥は呪力の放出を抑える
瞬間――憂憂が棺桶に閉じ込められた。
――【墓】
疱瘡神が開いた右手の平に握った左手を上からトッと下ろして印を結ぶ。墓石が落下する合図だが、いつまでも墓石が落ちることはなかった。
その印を結んだ手を冥冥は斬り落とす。
「私が、ただの荷物持ちであの子を連れているとでも?」
――【シン・陰流 簡易領域】
あらゆる術式を中和する弱者の“領域”。
冥冥の言う『命懸け』は、憂憂に対する呪術使用許可の合言葉で、彼の役割は領域対策。他人に借りを作るのは性に合わず、その辺りは憂憂に任せてある。
すると、疱瘡神の切り離された腕の断面がボコボコと音を立てて再生した。