第51章 モレンドに敬意を表して【渋谷事変】
斧を振って男の血を払っていると、不意に冥冥は気配を感じた。
「姉さま」
「あぁ、【帳】が上がったようだね」
しかし、五条 悟に貸しを作るなんて、いったい いくらになるのやら……。
「胸が躍るね」
うっとりと笑みを浮かべていると、トンネルの奥から人影が現れる。
「いやはや、君か」
「冥さん、お久しぶりです」
「刺客を放っておいてよく言うよ、夏油君」
見覚えのある顔に、冥冥は冷静に頭を働かせた。
なぜ生きている? 去年、五条がしくじったのか?
もしかしたら、五条とグルという可能性も……。
そこまで考えて、冥冥はその考えをすぐに切り捨てた。
五条は一人でこの国の人間全員を殺せる。誰かと組む意味も小細工を弄する必要もない。
「私は五条君より君を買っていたんだよ。ニヒルな笑顔もチャーミングだった。そんな君を殺さなければいけないなんて……残念至極だよ。本当に……残念だよ」
現状 目に見える情報で推測するならば、おそらく この夏油は偽物。
「冥さん、私も残念です。かつての先輩を手に掛けるのは」
――特級仮想怨霊・疱瘡神(ほうそうがみ)。
呪霊操術……読みが外れたか?
やはり本物……どういう理屈か方法か、生き延びていたということか?
「去年 手持ちの呪霊は使い果たしてしまいましたが、質は衰えていませんよ」
そう言って疱瘡神を残し、夏油は冥冥に背を向けた。
「念のため地下五階の人間は残しておきたいんです。線路で待っていますね。ソイツを祓えたら私が相手をします」
不意に夏油の後ろ姿が消えた――否、周囲に薄暗い墓石の景色が広がる。【領域展開】だ。