第19章 観覧車
目下の風景を見渡しながら、Nは語り始める。
「パシオはスバラシイ島だ。人々が自由にモンスターボールからポケモンを出して街を歩いている」
Nは遠くを指差して、私に目配せしてくる。
「見て。あの女の子が離した風船を、向こうのトレーナーのモンメンが掴んで渡している。あっちでは、喧嘩したコイビトたちを仲裁しようと、チラーミィがふたりの手を取って握手を促している。たくさんのヒトとポケモンがラブで繋がっている…!」
「そうだね。みんながああやってポケモンと仲良くできたらいいよね」
Nは、ポケモンと人が仲良くしているのを見ると、心から嬉しそうな顔をする。幼少期からかわいそうなポケモンを見て育ったNにとって、それは特別な光景に映るのかもしれない。
「ポケモンとヒトを分断しようと、二極化の世界を追い求めていたあの頃に比べて、ボクも随分変わった…」
笑顔に少し影がさす。Nは、どんなに楽しそうに見えても、時折寂しげな表情になる。
「…昔のボクは、こんな風に心から笑うことすらできなかった」
そうこぼし、小さく息をついて目を伏せてしまった。
「さっき、キミはボクにこう聞いたね?白黒つけて、ちゃんと答えを出せってことか、と」
こくりと頷く。
「当時のボクならそう言ったかもしれない。けれど、この世界は曖昧で、単純じゃないから美しいんだ。それはなにも目に見えることだけじゃない。きっと、心だって同じはずだ」
「うーーん、やっぱりムズカシイ…」
「難しくないさ。だってそれは、キミが教えてくれたことでもあるから」
思わず苦笑する。
「私?私はなんにも教えてないよ」