第19章 観覧車
晴れ渡る空の上、ゆらゆら揺れる小さなゴンドラ。ふたりの時間がゆっくりと流れる。
そんな中、静寂を破ったのはNの声だった。
「こうしてると、あの時を思い出す」
「あの時って?」
「キミとコイビトを演じた時さ」
思わず座っている体勢を崩しかけ、悟られないようゆっくりと姿勢を整えた。
「ああ…ええと、懐かしい、ね!」
平常心、平常心、取り乱してはダメだ。
「あれからコイについてずっと考えていたんだ」
Nは、考え込むようにまぶたを閉じて続ける。
「ボクには、ボクを慕ってくれるポケモンたちがいる。もしそのうちの一匹だけを選べと言われても、きっとボクには無理だろう。だから、コイというものはとても残酷だと考えたんだ」
「残酷…?」
いちばんになりたい、特別になりたい、代わりがいない存在でありたい。
恋人とは、お互いがそう思い合って成立する関係。
それをNは伝えたいのだろうか。
Nはゆっくりとまぶたを開いて私を見据え、畳みかけるように言葉を連ねる。
「無数に存在する可能性の中で、互いにスキと思い合う、それがコイという数式だ。コイビトになるのはひとりだけ。理屈の上では、理解はできる。選ばれなかった誰かが間違っていたわけじゃない。でも、解がひとつに定まるということは、同時に切り捨てられる者が存在するということだ」
「ええと、早口だし難しくてわからないよ…」
「つまり——」
それまで饒舌に語っていたのに、ふいにNは言葉を止めた。そして、思い詰めた表情でその先を話す。
「——選ばれる者がいるならその逆も生じる。しかしそのルールをわかっていても、感情を抑えることはできない」
「N…急にどうしたの?」
Nは私の問いには答えずに、さらに疑問を投げてくる。
「キミはどう考える?この残酷で不条理なコイについて」