第2章 三十日月2
まったく昨日はヘンテコなミノムシ……改めヘンテコな人間にすっかり時間をとられてしまった。今日こそはと朔は気合を入れて山を歩くが、暮れ色の空が蒼黒に染まってもマトモな人間とは出会わない。
意図せず歩きついた先は昨日の場所だった。
今日はいないだろうかと、好奇心に勝てず木の裏側に回ると。
「おぎゃああがあああ!!!!!」
またしてもの耳をつんざくような絶叫に朔の全身が粟立った。
「いやあ食べないで!俺全然旨くないから!食べるとおなか壊すよ!おなか壊すとすごく痛いんだから!痛いだけじゃなくて俺が消化されるんだよ!俺を消化すると俺が栄養になるよ!!!いいのか!いいわけないだろ!!ふざけんなよ!胃袋が許しても俺は許さない!!!」
普通に木の幹に縛り付けらた善逸が自由に動く首と頭を伸ばすだけ伸ばしてわめきたてる。昨日もそうであったが、拘束された状態で恐ろしい機動力だ。
悲鳴の内容も音量も慣れないが、朔は笑みを浮かべた。
「相変わらずうるさいやつね! アタシよ! ア・タ・シ!!」
朔は善逸の前に立ち、きどった様子で髪をかき上げる。善逸はその動きを目で追いながら一言こぼした。
「むむぅ。昨日のかわいい声の子?」
かわいい。その言葉に気を良くしたようにうなずく朔。
「……に化けたおにー!!! ぎゃー!!!」
木幹をげいんと蹴る。ひらひらと落ちてきた葉が善逸の頭に乗っかる。
静かになった善逸に朔は顔を近づけた。
「アタシのどこが鬼よ!!」
キッと眉を引き上げた鬼の表情に、怒気を含ませた重みのある声ですごむ朔。
当の脅されている方はそんなそぶりを見せず、ほわーっと顔をふやけさせる。
「こんばんは、朔ちゃん! 今日もかわいいね!」
あまりの変わり身に朔は我慢できなくなり吹き出した。
「アンタのそういうとこムカつくけどちょっと面白いわ」