第1章 三十日月1
ぐぎゅるるー
久しぶりの食事を想像したせいか、腹の虫が鳴く。
帯の当たりに手を当て、ミノムシに目をやる。
「この際、息のあるなしにかまってらんないや」
ミノムシの根は少女の背丈の二倍はあろうかという高さの枝にあった。
枝から垂れ下がるのは荒縄。かろうじて見える後ろ頭を残し、そこから足先も見えないくらいにグルグルに巻かれていた。
その形はまさにミノムシ。
いったい誰がどんな目的で吊るしたかはわからないが、このミノムシ1体のためにとてつもない労力を費やしたことがわかる。
手を伸ばしては、引っ込め、どうしたものかと少女が躊躇していると、
くるりとミノムシがまわり
その顔が晒される。
思っていたより若い。というより幼い。見た目だけなら少女とそう変わらないくらいに見える。
生きているのだろうか、とさらに近くで見ようと腕を伸ばすと、その目が開いた。
それはもう、これ以上は開かないだろうというくらいに。
大きくひんむかれた瞳が少女をとらえる。
ごくりと唾を飲み込む少女。
時間が止まったかのようにふたりで見つめう。
先に沈黙を破ったのはミノムシだった。
「おぎゃああがあああ!!!!!」
突如鼓膜を破るのではないかというくらいの悲鳴が上がる。
今まで聞いた悲鳴の中でも大きさとその汚さでは一番といってもいいくらいのものだ。
少女は思わず両の手を耳に押し付けた。
「ぼにぃぃぃーーーー!!!」
意味をなさない音は両手をすり抜けて鼓膜を通り抜けて直接脳を揺らした。
さらにはミノムシはその騒音をまき散らすだけではなかった。どこをどうしたらそうなるかというくらい激しく縄が鳴る。
ただの荒縄だ。決して伸びる素材ではない。それにもかかわらず、びよんびよんと縦横斜めと不規則にミノムシが跳ねまわる。
少女は今まで感じたことのない恐怖に思わず一歩後ろずさる。
こんなことは本当に初めてで、ただただ、ただただとまどった。
「オレなんか食べたってうまくないしぃ!腹下すだけだしぃぃぃ!!」
ちょっとした化け物が言われずともわかる自己紹介を終えたところで、ぶちっと縄が切れた。
ごとり
重力に従ってミノムシは地面に落ちた。
顔面を下にして思い切り落ちた。
落ちたミノムシは動かない。叫ばない。