第3章 三十日月3
木を背にして二人は並んでぼんやりと紫がかかった空を眺めた。
そういえば縄に縛られていない善逸はふたりが出会ってから初めてだ。
「ねえ、善逸はいつからアタシが鬼だって気づいてたの?」
先ほどの善逸とのやり取りは、朔が鬼と知ってのこと。善逸の前では普通の少女を装っていたのにと不思議そうに首をひねる。
困ったようにこめかみを掻きながら善逸は答えた。
「えーと、最初に会った時かな?」
「えっ! アンタ、アタシの正体がわかってたからあんなに騒いでたの? てっきりビビりかと思っちゃったじゃない」
「ビビりはそうだけど……俺人より耳がいいからさ。君からは人の音がしないんだよ」
「音? そんなもので見分けられるんだ」
最初にあった日に「じいちゃん」の足音を聞き分けたあたり、相当に耳が良いのだろう。
朔は自分の胸に手を当てた後、善逸の胸に耳をつけるが、どくんどくんという同じ命の音しか聞こえない。
あえて違うところを上げるなら善逸のほうが少し早いか。もっと聞こうと近づくと、善逸がわっ!と声を上げて離れた。
朔はむぅっと口を尖らせ善逸を睨みつける。
「えーと、君はさ、鬼だけど人は襲わない。少なくともこれからは、さ」
「どうかしら。もう、おなかすいて限界。約束したけど、やっぱりアンタのこと食べたいんだけどさ。それでもまだお嫁さんにしてくれるわけ?」
冗談めかして人間よりも尖った犬歯を見せつけてやるも、善逸は全く怖がりもしない。
つまらない反応に朔がそっぽ向くと、慌ててその視界に入るように回り込む。
「もちろん。ところで、その着物すごく似合ってるね」
「やっと気づいたの? 山の中にいた女から奪ったのよ。食べてないわ。ちょっと傷つけたかな。ちょっとだけよ、ほんのちょびっと」
「信じるよ。でも人から盗るのは悪いことだからもうしないでね」
「今度したら木に縛る?」
「そうならないように俺が着物を買うよ」