第3章 三十日月3
「オニって……ねえ、アンタ今なんて?」
「俺さ、弱いからさ。きっと一番最初に鬼に食べられちゃうんだよ。だから君に会うのも今日が……っく」
さめざめと静かに涙を流す善逸。
それを背中で感じつつ朔は憮然とした表情で考えていた。
いつも怯えていて、会ったばかりの朔に求婚してくるぐらいいいかげんで、面白いだけの人間が鬼狩りだって。話にならない。鬼狩りの試験とやらであっけなく死んでしまうか、運よく生き残ったってすぐ鬼に殺されてしまうだろう。
朔なら善逸に危ないことはさせない。どこまでだって誰からだって守ってやれる。どんなに腹がすいていても他の誰を食べても善逸だけは絶対に食べない。
「……逃げよう。そんなに嫌なら逃げればいいじゃない!」
こんな良い考えはないとばかりに、善逸の手を取り強く握った。
「できないよ」
一瞬、驚いたように朔を見た善逸であったが、首を横に振った。
「なんで! アタシもアンタと一緒に逃げるから」
「ダメだよ! 中途半端な俺を弟子にしてくれたじいちゃんを裏切れない!!」
「中途半端だってなんだって……アタシはアンタに会えないのが嫌!!」
縋るような気持ちで見つめるが、善逸の意思は固かった。
怒っても、なだめても、何を言っても何をしても善逸は頷かない。
「そう。こんなに言ってもダメなんだ」
コレはもう駄目だ。
自分のお気に入りだったモノが、どこの誰ともわからない鬼の餌食になる。そんなことが許せるはずもない。
手に入らないのならいっそ。この手で。
覚悟を決めて顔を上げると、こちらを見つめていた善逸と目が合った。
月に見放された暗い闇の中、善逸の視線が朔を射抜く。
「朔は俺を食べるの?」
眉を下げた善逸は、彼に似つかわしくない悲しそうな笑みを浮かべていた。
ああ、そうだよ。アンタを久しぶりの食事にしてあげる。
これで一緒にいられるね。
人間にはない鋭い爪が引き裂いたのは、善逸を縛っていた縄だ。
「善逸のことは食べないって言ったじゃない」
最初に約束してしまったから、と朔も善逸に負けないくらい悲しい笑みを浮かべた。