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【黒子のバスケ】帝光の天使(中学校編)

第8章 ー天使の涙ー


白金のところから戻った久遠は黙って帰る準備をしていた。
いつもなら「お待たせー」とか「帰ろっかー」とか何かしらの言葉があって然るべきなのに。
赤司は自分のバッグを肩にかける久遠の横顔をチラリと窺う。
その表情はどこか物憂げで、また赤司の心がざわめく。

「監督の用事は何だった?」

気付いた時にはそう口にしていた。
本来であれば、久遠だけ残されて話した内容まで問いただす必要はないと思う。
しかし、それまであんなにニコニコと上機嫌だったのに白金のところから帰った途端にこれでは何かあったとしか思えない。
いくら赤司でも原因を知らなければ対処ができない。

「あ…えと…今までどおりみんなのこと見ててってー…それで、その時に一緒にいたい人の側にいてって…」

「そうか。今までも天野には皆支えてもらっているから、これからも変わらずよろしく頼むよ」

「うん…」

声をかけても変わらず浮かない顔の久遠に、久遠の憂いの原因は白金からの要求ではないことがわかる。
内容的にも普段の久遠だったら笑顔で引き受けるようなものだ。
では、何だと久遠の表情を見ながら考えるが思い当たらない。

「それ以外に何か話はあったのか?」

そう訊けば久遠は赤司の目を見た。
久遠の瞳の奥が揺れているように見える。

「…んーん、何もないよー…」

なんて嘘の下手な人間なんだろう。
言葉と瞳が合致しない。
久遠の目は「何かあった」と語っている。
きっとそちらが本当。
しかし、久遠が言葉で否定しているところ、それ以上踏み込むことが赤司にはできなかった。
先日、久遠が憂うのであれば自分は憂いを晴らすと決したばかりだった赤司の想定外だった。
久遠が憂いを隠すなどとは思ってもみなかった。
しかし、考えてもみれば転入前の学校であれほどのことがあったのに親しい者誰一人に対しても助けを求めなかった久遠なら頷けることなのだ。
久遠が何も話さなければ赤司は手を差し伸べることもできない。
それを自覚した時、赤司は心臓が掴まれたようだった。
その感情は今まで感じたことのないものだった。
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