第8章 ー天使の涙ー
「…ぉっ身体の、具合は、大丈夫ですか!」
絞り出した声のボリュームが多少大きくなってしまったが、自分の気持ちを伝えるのに必死だった久遠はそれほど気にしてはいなかった。
むしろ、言い終わった後は「言えた!」という達成感すら滲んでいた。
驚いたのは白金だった。
いつも細められている目こそ開かなかったが、眉はこれ以上ないくらい持ち上げられていた。
「…どうしてそう思うんだい?」
白金は質問には答えず、そう尋ねた。
まずは質問の意図を、どの程度のことを訊きたがっているのかを確かめようとした。
その質問に久遠は再び手をモジモジさせ始めた。
「えっと…白金監督はー…呼吸の感じが、ちょっと…違っていてー……久遠のうち、病院だからたまにおんなじ感じの人を見かけてて…だから…そのー」
歯切れの悪さも普段の久遠には見られないものだった。
久遠としても白金の身体の不調の見当はついている。
しかし、それを本人に言っていいものなのか、本人は受診しているだろうか、治療しているだろうか、受け入れているのだろうか、それがわからない状態で告知していいのだろうか。
そんないろいろな思いが久遠の言葉を鈍らせる。
しかし、白金はそんな久遠の内情を慮るように再び微笑んだ。
「大丈夫。ちゃんと病院にかかって、治療もしているよ」
そう久遠の頭を撫でてやった。
そして久遠に視線を注ぐ。
(…天野……あの総合病院の…)
いつまでも心配そうに自分を見上げてくる久遠に白金は更に口角を上げた。
今度はどこかイタズラっぽさが垣間見えている。
「君は病院の患者さんの前でもそんな顔をしているのかな?」
その言葉に久遠はハッとさせられた。
「…いえ」
遂には困ったように俯いてしまった。
白金は少しいじめ過ぎてしまったかと苦笑すると、久遠の肩に手を置いた。
「君の笑顔にはみんなが救われているはずだ。もちろん、それは私も含め、だよ」
久遠はゆっくりと顔を上げた。
まだ困ったように眉を垂れている。
それでも穏やかに微笑む白金と目が合うと少しだけ口角を上げた。
「そうそう。私の身体のことはみんなにはナイショにしておいてくれ。あと、さっき私がお願いしたことも忘れずにな」