第8章 ー天使の涙ー
「ただいまー」
久遠の明るい声が練習の終わった体育館に響いた。
「おかえり、天野。ご苦労だったね」
試合同伴から帰ってきた久遠たちを当たり前のように赤司が迎えた。
「んーん、全然ご苦労じゃなかったよー」
ルンルンとしてる久遠に赤司は少し怪訝そうな顔をした。
それもすぐに笑顔に変えて、
「随分と機嫌がいいみたいだね?」
と尋ねた。
その言葉に久遠はニッコリと笑って、手にしていたスコアブックを開いて赤司の方へ向けた。
「今日、青峰くんがすっごい飛んでたのー!」
「……」
笑顔を顔に固定したまま赤司はスコアブックを一瞥してから、視線を久遠へとスライドさせた。
「そうか。青峰の調子が良かったんだね」
「うん!すっごくすっごく格好良かったぁ!」
スコアブックを掲げてクルクル回る久遠を赤司は笑顔で見守りつつも
「そんなに回ったら転ぶよ」
と肩に手を置き止めた。
「天野が楽しかったみたいでよかったよ。スコアブックもちゃんとつけてくれたみたいだしね」
「久遠、ちゃんとお仕事はしてきたよー」
「そうみたいで安心したよ。次は俺の出る試合もよく見てほしい」
「うん!赤司くんもたくさん飛んでねー!」
「あぁ。そのつもりだ」
そうして、片付けが終わってから一軍から参加したメンバーで白金への報告が行われた。
帝光中の快勝を白金は評価し、今後も邁進するように檄を飛ばした。
それが終わって解散が言い渡された後だった。
「天野くん、ちょっといいかな?」
白金が久遠を呼び止めた。
白金が指揮を取り始めてからでも、マネージャーである久遠は特に何か言葉を交わすこともなく今まで過ごしてきた。
今このタイミングで久遠に声をかけたのだからどのマネージャーでも良かったわけではないことはわかる。
赤司は一瞬動きを止め久遠と白金に視線をやったが、そのまま他のメンバーとその場を後にした。
その場に誰もいなくなるまで白金は話し出さなかった。
そんな白金を久遠は珍しく笑顔ではなく心配そうな面持ちで視線を送っていた。
久遠の視線に気付いた白金は安心させるように優しく笑った。