第8章 ー天使の涙ー
白金が指揮を取るようになり、練習は日々厳しいものとなっていった。
そんな中で久遠は、黒子が吐きそうになれば絶妙なタイミングでバケツを差し出し、黄瀬がへばれば足のストレッチを施し、紫原が練習に対して愚痴れば笑顔で励まし、緑間の爪を整え、青峰のプレイに喜び声援を送った。
そして、ほぼ毎日の赤司との下校も続いていた。
些細な衝突はあるものの、それなりにまとまっているように久遠の目には見えていた。
ある日、二軍の試合に選手として青峰、黄瀬、緑間が、マネージャーとして桃井と久遠が同伴することになった。
「久遠ちんいないの?つまんねー」
学校に居残り組の紫原がぼやく。
「久遠さんって二軍の試合に同伴するんですね。彼女は赤司くんとニコイチだと思ってました」
黒子が赤司に向かってそう言った。
そう思わせるほど、最近の赤司は部活中、そして部活後と久遠と一緒にいることが多かった。
その自覚が赤司自身もあった。
「そんなことはないさ。マネージャーの二軍の試合への同伴は輪番制だよ。むしろ桃井が行ったことの方がイレギュラーだ」
今回、桃井はデータ収集のための同伴である。
マネージャー業務は久遠が一手に引き受ける。
「そういえば久遠さんが普通のマネージャー業務をやってるところをほとんど見たことがないのですが、スコア付けとか大丈夫でしょうか?試合に夢中になって付けるの忘れそうじゃないですか?」
「はは。天野は発言に抜けているところはあるけど、マネージャーとしても優秀だよ。スコアなど紙面を見ずとも難なく付けるさ」
「え…紙面を見ずに、ですか?」
「一瞬たりとも試合を見逃しくないんだろうね。いつもみたいに試合観戦を楽しみながら、手だけ動いてスコアをつける様は自動書記のようだよ」
「それは…なかなかシュールな光景でしょうね…」
「あぁ。まぁ、俺たちの試合でマネージャーの挙動まで目が行く者はいないだろうから誰も気づいていないけれどね」
「はぁ…」
「天野が帰ってきたらスコアを見せてもらうといい。きっと完璧に付けているはずだから」
「はい、そうしてみます」
そうして、居残り組は普段の練習を開始した。