第8章 ー天使の涙ー
「最近、天野と帰ることが多いな」
「最近は帰りが遅くなることが多いからね」
「少し過保護すぎるのだよ」
「そんなことはないさ。彼女も大切なチームメイトの一人だからね」
例えチームメイトだとしても行き過ぎているといった緑間の表情を見た赤司は今度は困ったように笑って見せた。
「それに天野は放って置くと下校しながら人助けして帰るからいつまでも家に辿り着かないんだよ」
赤司がそんな顔をするのも珍しい。
困ったようなのにどこか嬉しそうでもあるその表情に、緑間は何故か胸がモヤついた。
自分でもどうしてそうなったかがわからない緑間は
「天野のお人好しも大概なのだよ」
と返してその場を離脱した。
その後、下駄箱前でたむろしていた他のメンバーと合流して一緒に帰ることとなった緑間は、晴れない胸のモヤが歩きながらお菓子を食べる紫原を見て、さらに増大し、思わず
「歩きながら菓子を食べるな」
と注意したが聞く耳を持たない紫原により一層イライラとさせられる羽目になった。
一方赤司は体育館の鍵を返しに行った先、職員室の廊下で久遠を見つけた。
何やら廊下に貼られた掲示物を読んでいるようだ。
その横顔はいつもの柔和なものではなく、どこか憂いを帯びているように見えて思わず赤司はドキリとした。
「天野」
名前を呼ばれて振り向いた久遠は赤司を見てもいつもの笑顔は浮かばない。
それだけで赤司の内は僅かながらさざ波立つ。
それを隠すように赤司の方が笑みを浮かべた。
「待たせたね。どうかしたのか?」
そう穏やかに訊けば久遠の眉は更に下がった。
久遠のそんな顔を見れば自分にどうにか出来ることなら何とかしてやりたいと思ってしまう。
「新聞部の新聞を読んでたんだけど…」
「あぁ」
「飼育小屋のうさぎが死んじゃったんだって…」
「…そうか」
赤司の中でその記事は新聞紙面のどうしても埋まらない穴を埋めるための苦肉の記事であると認識していた。
新聞の隅に書かれた本当に小さな記事。
(そんなものにまで心を痛めるのか…)
普段の久遠からは想像もできないほど彼女の中は繊細で、それを知る者はほとんどいないだろう。
自分はそれを知る数少ない者であることに、赤司自身が意味を見いだしている。