第8章 ー天使の涙ー
青峰は久遠という人間は本当に掴みどころがなくて変わっているヤツだと再認識した。
もとより久遠が入部してからまともに会話したのはこれが初めてだった。
いつもは他のメンバーと話しているのを横で聞いているくらいで、他の女子とは何か違うなと思う程度だった。
他のメンバーは身体のケアなどで関わることもあるが、青峰は身体のどこにも不調もなければ、身体の使い方自体も久遠の琴線に触れるようなところがないようで特に何かをアドバイスされることもなかった。
だからこそ、さっき見た涙(?)について言及すべきかどうか迷うところではあった。
むしろ、久遠のこの反応を見る限り、泣いていたわけではなくたまたま(欠伸とかで?)出てしまったものかもしれないとすら思う。
そんなことを考えている青峰と何を考えているかわからない久遠との間にはしばらく沈黙が流れていた。
「久遠ね、青峰くんのバスケが好きなんだぁ」
そう唐突に沈黙を破ってくる久遠に青峰は「んぁ?」と間の抜けた相槌しか打てなかった。
そんな相槌でも気にすることなく久遠はいつものふにゃふにゃした笑顔を浮かべている。
「青峰くんはさ、いくらでもコートを走れて、いくらでもゴールに跳べるでしょ?なんかどこまでも飛んでいけるーって感じで…いいなぁって思うの」
誰よりも早く走って、誰よりもゴールを狙って、誰よりも自由にプレイしている。
いくらでもどこまででも飛んでいける。
そんな感覚が青峰にないわけではない。
むしろ最近はプレイの調子も良く、自分の成長を肌で感じつつある青峰はこの時ばかりは久遠が何を言いたいのか理解できた。
だから、自慢でもなく、奢りでもなく、自然に、
「まぁな。まだまだ飛べそうな気ぃすっからな」
とこぼしていた。
それには久遠もにっこり嬉しそうに笑った。
「すごいなー、青峰くんは。これからも楽しみだねー」
「おう。楽しみにしとけ」
青峰も珍しく無邪気に笑ってみせた。
そしてまた二人で青空を見上げたのだった。